ベトナム人の被告人の年齢について、よく点検してから刑事訴追するように

2013621日にそんな判決がイングランドの控訴院で出ています(L & Ors v The Children’s Commissioner for England & Anor [2013] EWCA Crim 991)。むこうで、日本人の年齢が見かけではよくわかりにくいと聞くことがありますが、日本にとどまらず、東洋人(the Easternsなんて表現も)、友人に言わせると、「ビルマから向こう」は全般的に分かりにくいそうです(ちなみにインド・パキスタンあたりをアジア人the Asiansといっています)。反対に東洋人の視点でみると、西洋人の年齢も、中東を含めて、ちょっとわかりにくい気はします。「慣れ」の問題かもしれません。

それにしても、イギリスでベトナム人の被告人に出会う比率は意外に高い(!?)

10年くらい前、ロンドンの南の方のある刑事裁判所(Crown Courtの開廷所)で、Nguyen(阮)という被告人女性の事件を同僚と「観戦」したときのこと。裁判官は、NGUYENというNから始まるベトナム語綴りをどう読んでよいのかわからず、とりあえず真ん中のGUYに着目して「ガイ」と呼んで、面白いことに、弁護人も通訳も被告人の名前を知らないのか、誰も、一向に、これを訂正しようとしません。裁判官が直接「Mrs Guy」(ミセズ・ガイ)と呼びかけて、ドック(被告人席)の女性はうなずいているから始末に負えない。普通は紙に書いてUSHER(アッシャー)という廷吏に渡せば、裁判中でも裁判官に伝えることはできるが、発音記号では伝わるかどうかも不明。休廷中に廷吏を捕まえて、「ガイ」ではなく「グェン」、NGは鼻音で「ぐェン」ですよと伝えると、隣から「ベトナム人に多い名前だよな。こっちのスミスみたいに・・・」とオリバー(同僚)が苦笑。

実は、裁判官は被告人の年齢についても「???」だったようで、

裁判官「この女性は、成年か?未成年か?」

弁護人「成年です、サー、既婚です。」

などという会話が交わされました。
私の目には被告人は結構「年」、少なくとも30代には見えていたので、裁判官の質問が意外でした。これが、17歳と18歳の違いだと、法的には大きな違いですが、実際上の区別は、人種の差、慣れの問題を超えて、微妙です。実は、自分の主観は別として、陪審を入れて裁判が始まる前に、念のためこの質問した裁判官は、結構、優秀だったということが、今年6月の控訴院判決から分かります。

今回の事件(L& Ors v The Children’s Commissioner for England & Anor [2013] EWCA Crim 991 (21 June 2013))は、イングランドの控訴院でベトナム人の麻薬犯罪での若年者被告人4人の有罪判決が破毀され、その理由は巨大組織による奴隷化、強制によるものだったからということでしたが、とくに裁判所向けにこういうタイプの被告人の裁判では、被告人の年齢(未成年かどうか)についてとくに慎重に審理すべきことが指針として出されました。刑事訴追については別途、公訴長官からの人身売買に関する法的指針(Human Trafficking and Smuggling)の中で一項目設けられました。

なお、このようなベトナム人若年者(違法入国者)大麻栽培事件の背景には、近年世界的に爆発的に拡大しているベトナム人の組織的な犯罪ネットワークがあるようです。イギリスで保護・逮捕されるベトナム人若年者たちは、中には明らかに児童なのでイギリス人養父母と養子縁組をした後でも気が付いたら脱走してもとの組織のために大麻を栽培していたなどという実例もあり、フタを開けると往々にして本国の家族が人質にとられていると信じており、そのために組織の集金活動のために犯罪に手を染め、奴隷労働にいそしんでいる、そういう構図があるようです。北米大陸からいつの間にか大西洋を渡ってイギリスへやってきた。日本にも結構、入ってきているようです。